私の座右の銘
内海由美子
“初心忘るべからず”
京都の祇園町には大切にしている慣習がたくさんありますが、その中で『おついたちの挨拶』というものがあるそうです。
舞妓さん、芸妓さんは元日以外、毎月1日にお世話になった方々に礼を貫くという姿勢で、舞妓さんに育ててくれた置屋、お茶屋さん、師弟関係のお姉さん方に必ずご挨拶に回ります。
お稽古やお座敷では毎日のように顔を合わせているのでしょうが、必ず毎月1日にご挨拶に回るのは『初心忘るべからず』ということなのです。
私の“座右の銘”の1つとして持っている『初心忘るべからず』は、何事も初めは経験がなく、自分は何もできていなかったのですから、その時の自分を忘れるなという意味です。
一般社会でも、上司や先輩から仕事を教えてもらい、代々受け継いでいくものも多いと思いますが、自分がちょっとできるようになると、先輩面をして、さも初めからわかっていて、できていたような態度で教える人がいます。
今、私は自分で小さな会社を経営していますが、古い人が入社したばかりの人に仕事を教えるときに、必ず、古い人が、「自分も知らなかったのよー」、「自分もできなかったのよー」と優しく仕事を教えている姿こそ、自分ができていなかった時(初心)を忘れずに行動してくれているからなのだなと、一番うれしく思うひとときです。
このように『初心忘るべからず』にいろいろな取り方があっても、日本に息づいた教えが脈々と伝播していくようにと願っています。